2023.05
税務訴訟の分野において最大勝率を誇るマリタックス法律事務所と業務提携を行いました。
中村徹
アンフェアな判決が相次ぐ租税回避訴訟の実態。
税理士 中村 徹
が挑む戦いとは。
税務調査、課税処分…。企業の財務担当や顧問税理士にとってはあまり耳にしたくない言葉ではないだろうか。特に近年、ビジネスのグローバル化が進み取引の規模や多様性が増しているからこそ、思いもよらぬ税務の落とし穴にはまるケースも増えている。今回は国内初の税務訴訟専門の税理士である中村徹氏に、税務訴訟を取り巻く現状について話を聞いた。
「不当な裁判で泣き寝入りするのが許せないんです」
インタビュー中に中村徹税理士から何度も吐露された言葉だ。ここでいう裁判とは国を相手どる税務訴訟を指す。
「国家の権力に抗うこと自体、そもそもハードルが高いというのがありますが、税理士が戦い方を知らないという事も大きいんです。更正処分をされると、企業の顧問税理士が税務署と早々に手打ちにしてしまうことが多い。どうせ訴訟しても勝てないから払いましょうと。でも、よく調べると税務署が間違っていることがあるし、論理の正当性に疑問符がつくこともあります」
税務訴訟で国税と戦うためには、これまでの数多の判例を参考に勝ち筋を描ける専門家を陣営につけられるかが鍵になると中村徹税理士は語る。理由としては国が主張する課税処分の根拠が極めて曖昧で、判例から推測するしかないからだという。
「“法人税の負担を不当に減少させる結果に繋がった”という判例がよく出てきます。でも不当と言うのは極めて曖昧な表現ですよね。具体的な数字は法律の中には一切出てきません。これはわざと曖昧にしているわけです。例えば、フェラーリはいいけどランボルギーニはダメといってしまったら、みんなフェラーリを選んでしまう。100万円でアウトならみんな99万円ギリギリを狙ってくる。そういうことが起こらないようにあえて曖昧にしているわけですが、税務訴訟においてはこの曖昧であることで国がどうとでも言えてしまう状況を生み出しています」
この曖昧さを読み解きロジックのパターンのようなものを見出せる数少ない材料が判例だ。中村徹税理士は判例を知り勝ち筋を見出せる希少な税理士として、税務訴訟における原告側の強力なパートナーとなり得る。
中村徹税理士が最も得意とするフィールドが「租税回避」だ。国が認めている税金を節約する節税、犯罪となる脱税、この中間に位置するのが租税回避であり、国が推奨もしていないが違法と明記もされていないゾーンといえる。
「企業からすると税法に反していないから問題ないだろうということで租税回避をするわけですが、国税からすると、納税者のやり方は、税法が本来予定していたものと異なるとして係争が発生します。ただ、客観的に見て国の主張に合理性が見出せない判例が多いのも租税回避事案なので、私のような立場の人間が企業と共に戦うことで多くの企業が救われると思っています」
ここで国内の租税裁判の判例を紹介する。まず一つは京醍醐味噌(株)の役員報酬をめぐる裁判。味噌を製造販売する企業の役員報酬月額2億5千万円が不相当に高額であるかが争点となった。つまり国としては同社の役員報酬が不当に高額であり、法人税法に違反しているとして否認したわけだ。2023年3月東京地方裁判所が下した一審判決では原告である京醍醐味噌(株)の敗訴が言い渡されている。味噌会社はこれを不服として控訴しているが、この判例については中村徹税理士はどのような見解を持っているのだろうか。
「国内の類似法人の役員給与最高額の平均額と比べて高すぎるから不当な報酬だというのが国の主張。争点となったこの類似法人の抽出方法ですが、国税庁が用いた日本標準産業分類は、同社のファブレス事業という分類にまだ対応していませんし、対象地域の選定理由や、事業規模の判定方法に用いられた売半基準には、必ずしも合理性があるとは感じられません。例えば、類似法人として、海外で成功している企業で役員報酬が高い企業を基準にしてもいいはずです。さらに、判決では、同社がベトナムにおける新事業でまだ収益が実現していないことも重視されましたが、同社はベトナムで将来的に年間100億円の収益を見込んでおり、そのような中長期的な業績・予算計画値をも織り込んで役員報酬を設定したわけです。国税庁は、否認ありきの都合のいいロジックを立てただけではないだろうかと感じます。さらに、納税者は、法人税で課されるであろう金額よりはるかに高額な所得税を、既に納めています。成果を出した役員に対してそれに見合った報酬を出す事が認められないとなると、民間企業が頑張って売り上げても経営陣がリターンを得てはいけないという理屈になります。私はおかしいと思います」
もう一つがヤフーの租税回避裁判。約540億円の赤字を抱えていた企業を買収後吸収合併し、ヤフーの利益と相殺することで法人税負担を軽減させた。これが租税回避目的での不当な行為であったかどうかが争点となったが、2016年2月最高裁がヤフー敗訴の判決を下したことで確定している。この判例についての見解はどうだろうか。
「欠損金を引き継ぐための要件があり、ヤフーは全ての要件を充足しました。だから、ヤフーとしては納得がいかない。逆に国税としては租税回避をする目的でその要件を満たすのは容認できないという論理。つまり本来の立法時の趣旨と異なるから不当であると主張したわけです。そして、租税回避が目的であると指摘した根拠が、そういったやりとりをしたメール等、ヤフーに不利なエビデンスが多く提出されたことであり、そのことがヤフー敗訴につながったと言われています。今後の課税や後世の判決への影響を考えると、結論から言うと国が正しいとは思いますが、ヤフー側にもしっかりとした法的根拠があると私は思います」
上記2件は両方とも原告側の敗訴となっており、租税裁判は基本的に「勝てない裁判」として認識されている。なぜ勝てない裁判になってしまっているのか。
「まずは企業の顧問税理士がそもそも間違っていることが多いのが大きな原因です。税法は目まぐるしく変わっており、これまでは認められていたことが大した告知もなく変更されていることがある。細かい改正を確実に追えている税理士が少なく、結果として間違えた申告をして否認を受けてしまうのです。また、そのような課税処分を不服として訴訟をする際に税理士は判例を知らないので頼りにならない。租税を専門にしている弁護士も極端に少ない。国を相手取って戦うには圧倒的に戦力が不足しているので、当然勝てないということになります」
企業の租税回避をめぐっては課税処分額も数十億〜数百億円と大きくなることも珍しくなく、企業としては唯々諾々と支払うことを了承はできないはずだ。戦いをサポートしてくれる専門家が不足している現状に対して、中村徹税理士はどのように切り込んでいくのだろう。
「まずは私が国内初の税務訴訟専門の税理士として立ち上がりました。どの税理士よりも租税回避の判例を知り、勝ち筋を見つけられる税理士として、企業をサポートします。具体的には出廷陳述権を持つ税理士として、弁護士と企業の三者でスクラムを組んで戦っていきます。ゆくゆくは弁護士のチームも作り、私に依頼すれば税務訴訟を戦える戦力は全て揃うという状況に持っていきたいです」
最後に中村徹税理士が税務訴訟専門の税理士として、どのような社会を実現していきたいと考えているのか聞いた。
「やはり国が相手だろうが”おかしいものはおかしい”としっかりいえる社会というものを作っていきたいと思います。一般的な裁判と比べたときに、原告側が90%敗訴するってどう考えても不自然じゃないですか。やはりそこは国の権力というかバイアスが影響していると思うので、倫理観をしっかり持った上で理不尽と戦う気概は持ち続けたいです。本来、税金の目的は国民が住みやすい社会を作ることだと思います。だから、日本がそういった国であり続けるために、納得がいかないと感じることがあったらしっかり戦っていこうと。税務訴訟の専門家として、これからこの分野を切り開いていこうと思います」
税理士 中村 徹
を解剖する
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PROFILE 中村徹
1983年生まれ。高校卒業後、社会人を経て、大学院に進学、税理士となる。
その後、多数の企業の税務サポートと会社経営を経ながら、判例研究を続け、現在に至る。
2023年9月からは租税訴訟学会の理事に就任。
2023.05
税務訴訟の分野において最大勝率を誇るマリタックス法律事務所と業務提携を行いました。
今回の取材を行う中、一貫して感じたのが中村徹税理士の熱量。税務訴訟の相手は国という巨大な権力であり、これまで90%が敗訴しているという事実から見ても一般市民であれば勝ち目なしとして戦うことを放棄してしまうはずだ。
しかし、「だからこそ理不尽は許せない」という強い意志と、誰よりも税務訴訟の判例を知っているという自信が、税務訴訟で戦っていく力となっているのだろう。中村徹税理士のある種の狂気を帯びた熱量があれば、国との戦いに風穴を開けることができるかもしれない。
インタビュー=落合達也(Shuzap)